投資に必要な知識

米国企業の決算用語③

horiki

今回は、米国企業の決算発表で最も大事な項目の1つであるEPSについて纏めました。
この記事の最後では、決算書には載っていないけれどもアナリストや機関投資家、株に精通した個人投資家が全く同じ数値のEPSを算出している事例を2点取り上げ、その導き方を解説します。

3回にわたる米国企業の決算用語の調査結果の共有は、これにて一旦完了とします。

1.EPSってなに?

  • EPS(Earnings Per Share)は、1株あたり当期純利益であり、投資した株式がどの程度の利益を生み出しているかを分析する指標です。
    • EPS(1株当たり当期純利益) = 当期純利益 ÷ 発行株式数
  • 多くの機関投資が確認する項目であり、アナリスト予想を上回ったかどうかで業績の良し悪しを判断する最重要項目です。
    • 前年比または前期比どれだけ増加していても、アナリスト予想よりも低ければ「悪い決算」として判断されます😅

2.保有銘柄の決算発表前にコンセンサス予想をメモしよう

Yahoo finance USAに公表されている数字をチェックしましょう。特に今期発表される数値とガイダンス(今期と通年の数値)が重要となります。

3.決算書のEPSを確認する

 (1)EPSの種類

決算報告書に記載されているEPSは以下の様なものがあります(複数の外国サイトを翻訳しながら読み解いたので、もしかしたら勘違いがあるかもです)。

  A.(BasicまたはGAAP) EPS = 普通のEPS【決算確認では一番役に立たない】

  • GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)は米国会計基準であり、(BasicまたはGAAP)EPSは、米国会計基準に沿って算出された値。
    • Basic EPS = 純利益 ÷ 発行済株式数
  • この値には、リストラに伴う費用や企業買収といった、単発的かつ、比較的大きな費用など全ての損益が含まれるため、バラツキが多いです。

  B.(GAAP)Diluted EPS = 希薄化後EPS【直近ではKBHやNKEがこの項目に該当しました】

  • Basic EPSは純利益を「普通株の発行済株式数」で割っていますが、Diluted EPSは純利益を「普通株の発行済株式数に潜在株式数を加えた株式数」で割った値です。この項目はBasic EPSよりも優先されます。
    • Diluted EPS=年間利益 ÷ (普通株 + 潜在株式)の発行済株式数
  • ※潜在株式とは、将来普通株に変換可能な転換社債やワラント債、ストックオプションなどのことです。
    • 転換社債;株式に転換できる権利が付いた社債
    • ワラント債;一定価格で株式を買える権利が付いた社債
    • ストックオプション;経営者や従業員が自社株を一定価格で購入できる権利

  C.Non-GAAP EPS = Adjusted EPS = 調整後EPS【最重要項目!!】

  • non-GAAP EPSは、その名の通り米国会計基準に則っていないEPSであり、GAAP EPSとの主な違いは単発的に発生する費用を含まないことです。つまり、主に本業で稼いだ利益を反映したEPSになります。
    • Non-GAAP (Adjusted Diluted) EPS = 継続事業の利益 ÷ (普通株式数 + 潜在株式数)
  • 前期、前々期の決算結果との連続性があるため、アナリストや機関投資家が重要視する項目です。なお、Yahoo Financeに記載されているEPSの数値はアナリストが予想したnon-GAAP EPSの数値です。
  • 調整後EPS(Adjusted Diluted EPS)と記載している企業も多々ありますが、同じ内容であると理解しております。
  • 企業によっては、non-GAAP EPSは毎回必ず発表されるわけではなく、何か特殊要因があるときにだけ発表されます。そのため、特殊要因がなければGAAP Diluted EPSの項目を確認しましょう。

 (2)基本はnon-GAAP EPSを確認しよう

  • A.項で述べた通り、前期との連続性のあるnon-GAAP ESPを優先して確認しましょう。
  • コンセンサス予想を提供しているYahoo finance USAの数値は、non-GAAP EPSです(アナリストが予想したnon-GAAP EPSの数値が記載されております)。
  • EPSの優先順位は、non-GAAP表記がなかったらGAAP、Diluted表記がなかったらBasicを確認しましょう。
  • 本業以外でイレギュラーな損益が発生した場合、決算書(8-K)にnon-GAAP EPS またはAdjusted EPSを表記するのが一般的です。また、BasicとDilutedも同様で、普通株のほかに潜在株式が存在する場合は、決算書にそれぞれの項目が記載されます。

 (3)2021年4月期決算で見た特殊な事例(本記事は、過去にnoteで作成した記事のアップデート版です)

特殊な計算が必要なため決算書に記載されていないが、広瀬隆雄さんをはじめとしたプロの相場参加者が共通認識しているEPSの数値を、逆算して紐解いた結果を以下の通り紹介します。このレベルでデータを解析できるようになるためには、場数を踏む必要がありますね。

  A.引き算が必要なパターン【ティッカーシンボル;TDOC】

  • 以下に決算書の本文を転載しております。中身を読んでみてください。すると、本文中のEPS(1.31ドル)には、繰延税金評価調整額0.57 ドルと買収した無形資産の償却費 0.30 ドル、株式報酬費用 0.57 ドルが含まれていることがわかります。
  • よって、-1.31 + (0.57 + 0.30 + 0.57) = 0.13ドル となります。

Net loss per basic and diluted share was $(1.31) for the first quarter 2021 compared to $(0.40) for the first quarter 2020. Net loss per basic and diluted share includes stock-based compensation expense of $0.57 per share and $0.25 per share for first quarter 2021 and 2020, respectively. Net loss per basic and diluted share also includes amortization of acquired intangible assets of $0.30 per share and $0.11 per share for first quarter 2021 and 2020, respectively. In addition, net loss includes the non-cash income tax charge referred to above of $0.57 per share for the first quarter of 2021 as compared to a benefit of $(0.01) per share in the first quarter of 2020. The number of weighted-average shares outstanding was 152.2 million for first quarter 2021, up from 73.3 million for first quarter 2020, substantially reflecting the impact of the Livongo and InTouch Health acquisitions.
引用;Teladoc Health Reports First-Quarter 2021 Resultsより一部抜粋

  B.紛らわしいパターン【ティッカーシンボル;LYFT】

  • まず、Net loss per share, basic and diluted が-1.31ドルです(A項と同じ数値なので紛らわしいですが、タイポではありません😅)。
  • ここで早とちりせずに、落ち着いて報告書を読み進めると、「First Quarter 2021 Financial Highlights」項に『2021年第1四半期の純損失は4億2,730万ドル。これは、株式に基づく報酬と関連する給与税費用の1億8,070万ドル、および負債の変更に関連する1億2,800万ドルが含まれる』と記載されています。よって、-1.31ドルは我々投資家が知りたい数字ではないことがわかりました。
  • 更に読み進めていくと、最後にAdjusted Net Loss(調整後純損失、下図参照)の項目が出てきます。これは、純損失-4億2730万ドルから冒頭に説明のあった費用と負債を引いた項目であり、-1億1410万ドルとなります。
  • これをWeighted-average number of shares outstanding used to compute net loss per share, basic and diluted (1株当たり純損失に使用される加重平均発行済み株式数)326.2億株で割ると、-0.35ドルになります。
画像2

4.ワンポイントアドバイス

決算書に乗っていないEPSの数値を機関投資家やアナリストが言っていたら、「学びの機会」と考えて、決算書を読み進めると楽しくなってきますよ。

horiki
ほりき
ほりき
サラリーマン株式投資家
愛媛でサラリーマンをしている個人投資家です。
自分の人生を有益なものにするためにブログを始めました。
米国株式を中心に情報発信をしています。その他、個人的に「残しておきたい」と思う情報や思い出もアップしていきます。
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